スタンドアローン赤血球

「アイ・ロボット」という映画があるのだが、そのなかのワンシーンにぼくがものすごく気に入っているワンシーンがある。

ロボットが一般家庭に普及する世の中を舞台にした映画なのだが、主役のウィルスミス演じる警官が、ある事件の捜査のなかでつかまえることになったロボットに対し、
「おまえは人間にはなりえない。交響曲がかけるか?素晴らしい絵がかけるか?」と問いただす。

が、そのロボットはすかさず
「can you?(あなたはどうなのだ?)」と聞き返し、
警官は文字通りぐうの音もでなくなってしまうというやりとり。

なんという恐ろしい問いだろうか。
なんという最終魔法のような即死レベルの言葉だろうか。

人間。総体として戦えば、かなりの輝かしい実績をあげてきた自他ともに認める優秀な種族である。
が、しかし、鏡をみてそこにあらわれる髪がぼさぼさで乾燥で肌がかさかさになっているこいつは、
輝かしい実績も、優秀さのかけらも感じさせない。
そんなこいつと、人間を模してつくられた人形やらロボットやらとは、果たしてどちらが人間に近いのだろうか。

総体と個、これはぼくらの社会の永遠のテーマだと思う。
総体の力が個の集積以上の力をもつと信じられているのが社会、
そんな社会のなかで「個」とはいったいなんなのだろうか。

血液のなかの赤血球のように、外部に「個」として出て来ちゃいけないやつなのだろうか。
いや、様々な人間の集合体として「個」が形成されているという説もある。
だとしたら鏡にみえるこいつはこのあとどうすればいいのだ。

とりあえず「アイ・ロボット」のDVDでも借りに行こうかな。